『権力の終焉』
(モイセス・ナイム/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 ベネズエラ開発相、世界銀行理事などを歴任した著者のモイセス・ナイムは、冒頭でこんなエピソードを披露する。「主要経済閣僚のひとりとして、私は強大な権力を手にしていた。しかし実際には、資源を有効に活用したり、人や組織を動員したり、もっと一般的なことを言えば、事を実現するにあたって、私にできることはきわめて限られていた」。

 これは、権力の民間へのシフトや各閣僚への分担、といった単純な話ではない。そもそも以前のように強大な権力が存在し難くなり、さらに権力を得ても、その権力は失われやすくなっているのだという。著者は様々なデータをもとに、政治から軍事、ビジネス、宗教まで世界中のさまざまな領域で進む「権力の衰退」とその影響を描き出す。

 本書によれば、衰退の要因はITの進化ではなく、世界の変化そのものにある。その変化とは、3つのM、すなわち近年の世界が以前より豊か(More)になったこと、あわせてヒト・モノ・カネが安価かつ迅速に移動(Mobility)できるようになり、その結果人々の権力への意識(Mentality)が変化したことである。ITはそのための道具にすぎないのだ。

 なお本書は、Facebook 創業者マーク・ザッカーバーグ主宰の読書クラブで第一回指定図書に選ばれ、全米で20万部超のベストセラーとなっている。今後どの業界にも影響を及ぼし、メリットとデメリットが同居する「権力の衰退」への処方箋として有益であり、ザッカーバーグの思索をも追体験できる興味深い一冊である。ぜひご一読頂きたい。

著者:モイセス・ナイム(Moises Naim)
 MITで理学修士号と博士号を取得後、ベネズエラ開発相や世界銀行理事を経て外交専門誌”フォーリン・ポリシー”編集長を14年間務める。現在はカーネギー国際平和財団の特別研究員のほか、ニューヨーク・タイムズやル・モンドなど世界中の有力紙に寄稿、ラテンアメリカで国際情勢を扱ったテレビ番組制作に携わり、自ら出演するなど、精力的な活動を展開。邦訳に『犯罪勝者.com―ネットと金融システムを駆使する新しい”密売業者”』(光文社)。

翻訳:加藤 万里子(カトウ マリコ)
 翻訳家。訳書に『エヴァンジェリカルズ―アメリカ外交を動かすキリスト教福音主義』マーク・R・アムスタッツ(太田出版)、『ストレングス・リーダーシップ』トム・ラス、バリー・コンチー(日本経済新聞社/共訳)など。

はじめに なぜこの本を書いたのか?
第1章 権力の衰退
第2章 権力を理解する どのように機能、維持するのか?
第3章 権力はどのように大きくなったのか?
第4章 権力はなぜ優位を失ったのか?
第5章 地滑り的勝利、安定多数、強い政権は、なぜ絶滅の危機にあるのか?
第6章 国防省vs海賊 大規模軍隊の衰退
第7章 世界の支配者は誰になるのか? 国際政治の新たなプラットフォーム
第8章 ビジネスの変化 企業支配の危機
第9章 魂と心と脳をめぐる超競争
第10章 権力の衰退 利益か、損失か?
第11章 権力は衰退している 何をすべきか?

要約ダイジェスト

権力の衰退

 21世紀の今、力は手に入れやすく、使いづらい——そして簡単に失われる。これは、権力が消滅したとか、権力者がいなくなったわけではない。例えば、アメリカ大統領や中国の国家主席、シェルオイルのCEOは依然として絶大な力を誇っているし、ローマ法王も然りだ。

 ただし、その力は先代たちには及ばない。これらの地位に就いていた過去の人々には、

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