『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』
(伊藤嘉明/著)

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  • 目次
 「変化の早い時代には、過去の経験や業界の常識は通用しない」とよく言われるが、実際に過去の経験にとらわれずに思考するのは難しく、時代遅れとなってしまう企業や製品は数多い。ではどうすればよいか。著者の伊藤嘉明氏によれば、そこで必要となるのが「よそ者・素人」の視点である。

 著者は日本コカ・コーラ最年少部長(当時31歳)を皮切りに、デル、アディダス ジャパン、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)などで華々しい業績を挙げ、現在は44歳の若さでハイアール アジアの代表取締役社長兼CEOを務める。これら異業種企業に著者は「よそ者」として参画し、結果を出し続けてきた。

 しかも、むやみに未経験業界に飛び込むのではなく、冷静に自分や企業の持つ武器を棚卸ししたうえで、あえて戦略的に「よそ者・素人」だからできることを実践してきたという。本書ではそうした著者の実体験を通じて、再現性のある仕事術が解説される。もちろん「業界のプロ」からの反発にいかに対峙したかというマインド部分も読み所である。

 世界を変えていくのは「よそ者、バカ者、若者」であり、大切なのは年齢や経験ではなく「姿勢」である、という著者の主張は事業戦略からキャリア構築まで一貫しており、次々と業界の常識を覆す姿に、本来のビジネスの醍醐味を感じることができるだろう。文字通り業界や年齢を問わず多くのヒントが得られる一冊だ。

著者:伊藤 嘉明(イトウ ヨシアキ)
 1969年タイ・バンコク生まれ。米国オレゴン州コンコーディア大学を卒業後、タイへ帰国し、オートテクニックタイランドへ入社。サーブ自動車の総輸入元として高級車の企画・販売・営業全般に携わった後、サンダーバード国際経営大学院ビジネススクールにてMBAを取得。そし
 日本アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティングを経て、2000年に日本コカ・コーラ入社。広報渉外本部、初代環境経営部長。2004年デルに入社、公共営業本部長兼米国本社コーポレートディレクターとして複数の大型案件を勝ち取り、アジア環太平洋地域のベスト・リーダーに選出。
 その後レノボ米国本社のエグゼクティブディレクター・グローバル戦略担当役員、アディダスジャパンの上席執行役員副社長兼営業統括本部長を経て、2009年にソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)、ホームエンタテインメント部門の日本・北アジア代表。2014年ハイアール アジア株式会社(旧三洋電機が母体)社長兼CEO就任。
1. どんな業界でも記録的な成果を出す人は何をしているのか?
2. どんな業界に行っても通用する人になるキャリア戦略
3. どんな業界、どんな時代でも戦って勝つための武器
4. どんな業界でも通用するリーダーシップ&組織論
5. グローバル時代を生き抜くために必要な姿勢

Check Point

  • 未知の業界に飛び込んだ時、業界知識などの勉強はある程度でよい。付け焼き刃ではベテランに対抗できないし、そもそもそうした知識が有用なら「よそ者」は呼ばれていない。
  • ビジネスには法律と異なり、変えてはいけない常識やルールは存在しない。そのため著者は「それって誰が決めた?」という言葉を口癖としてきた。
  • 「よそ者」の視点を生かすには、「地球規模で何が進んでいるか?」といった「ビッグピクチャー」を俯瞰した上で、自社に引き付けて考えることが有効だ。

要約ダイジェスト

どんな業界でも記録的な成果を出す人は何をしているのか?

業界の知識や常識は勉強しない

 自分の知らない業界に飛び込んだ時、多くの人は、その業界の知識や常識について猛勉強しようとするが、私はあえて「そこそこにしておきなさい」と言いたい。理由は2つある。まず1つは、付け焼き刃の勉強で対抗しようとしても無理だからだ。業界の人は場合によっては何十年もその業界にいて、知識と経験を持っている。

 より重要なのは2つ目の理由で、そもそも、そうした知識を今から詰めこむことに、あまり意味がないからだ。豊富な知識や経験を持ち合わせたベテランはゴロゴロおり、知識や経験で会社の業績が良くなるのなら、とっくにそうなっている。だが、そうではないから「よそ者」が呼ばれているのだ。

 これは知識や経験が無価値だという話ではなく、「知識や経験は、プロがいるなら彼らに任せておけばいい」という役割分担の話である。「よそ者」「新参者」の役目は、今まで業界の人がしなかった発想や戦い方を、彼らを巻きこんで実行に移すことだ。

いかにして『THIS IS IT』を200万枚売ったのか

 例えば、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)在籍時にマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』のDVD販売を仕掛けたとき、かつてのキングオブポップも全盛期を過ぎ、国内販売数は35万枚いけば御の字というのが、業界を知り尽くしたプロたちの結論だった。

 だが、私はそうは思わなかった。世界的スーパースターが「私の最後のツアーだ」と公言して準備したツアーを収録した作品である。数ヵ月前にアディダスジャパンという異業種から転職してきた私は、1人の音楽好きとして普通に考えても100万枚くらいは堅いと思った。

 私の持論を聞いて当時の副社長は、懇切丁寧に説明してくれた。「大手のレンタルショップや販売店でさえ5万枚も注文してくれない。一番大きい2箇所を合わせてもやっと10万枚。あとは小さなレコード店しかない。全部足し合わせても30万枚さえきつい」。

 副社長は最後に「無理です」と言い残し、会議室を出ていった。「わかりました。じゃあ目標を200万枚にします」、そう言った途端会議室からさらに3人出ていった。

 彼らの根拠は、DVD販売店や大手レンタルショップの店舗数と過去の取引データだ。確かに、そこで売ろうとすると、35万枚は妥当な数字である。だったら、「そこ以外」で売ればいい。これこそ「よそ者」の戦い方だ。

 私がとった作戦の1つが「スポーツ用品店」への営業だ。DVD業界の人間なら決して「DVDをスポーツ洋品店で売ろう」という発想はしない。売れるはずがないと思っているし、DVDを取り扱ってくれるとも思わないし、そもそも取引がないのでアプローチしようがない。

 だが、映像に映っているダンサーが着用しているスポーツウエアは、まさにスポーツ用品で取り扱っている。スポーツ用品店にも、このDVDを取り扱いたい理由がある。それは、部活帰りの男子学生以外、例えば女性客を取り込みたいと考えており、『THIS IS IT』が強力な武器となり得ることだ。

 私はこうした発想で、次々に新しいチャネルを開拓して『THIS IS IT』を売りまくった。結果、業界のプロが「よくて35万枚」といっていた『THIS IS IT』の販売総数は200万枚を超えることになり、今も売れ続けている。

口癖は「それって誰が決めた?」

 世の中には、法律や憲法のように勝手に変えてはいけないルールも確かにある。しかし、ことビジネスに関して言えば、そういった常識やルールは存在しない。刻一刻と変わり続けている環境に、常にゼロベースで立ち向かう姿勢が必要なのだ。

 「それって誰が決めた?」という言葉は、ハイアールアジアでAQUAブランドの新製品を開発するときにもよく口にしている。例えば、私が「なぜこれまで、透明な洗濯機がなかったのか」とベテラン技術者に聞けば、こんな答えが返ってくるだろう。

 「汚いものは見たくない。これがユーザーの心理です。そもそも洗濯機は人に見せたくないものです。だから家の奥、台所とか脱衣場とか、お客さんから見えない場所に置きます」。業界のプロが言うのだから、説得力がある。

 しかし正しいかどうかは別だ。では、ダイソンの掃除機はなぜ大ヒットしたのか。透明で中身が見え、吸い込んだゴミが丸見えだ。汚いものは見たくないなら、なぜ透明な掃除機が一番売れているのか。

 それは、「こんなにゴミがとれた」と見えるのがうれしいからではないか。だったら洗濯機も「こんなに汚れがきれいに落ちた」と目に見える方がうれしいはずだ。そんな発想から生まれたのが、世界初の洗濯槽の中が見えるスケルトン洗濯機「クリア」である。

 業界のプロによる説明や解釈は、貴重な情報であるが、ある1つの見方でしかない。むしろ話を聞きに行くべき相手は、業界と無関係な普通の素人だ。彼らは正直で生活感覚に根ざした意見を言ってくれる。「どうして扇風機や冷蔵庫は売れないと思う?」こんな素朴な質問で良い。「だって全部同じ色だろう」、こんな意見からビジネスのヒントは生まれるのだ。

ビッグピクチャーから考える

 よそ者として異業界に転職した人は、その業界のことは、最低限の勉強だけでいいとすでに述べた。ここで「最低限」とは「業界用語」の意味がわかる程度だ。「業界用語」はその業界で仕事をする際の共通言語であり、覚えないわけにはいかない。

 こうした業界用語はできるだけ短期間で身につけることだ。社内資料を少し読めば、だいたいわかるだろう。そして必要最低限の業界用語が理解できるようになったら、まず「ビッグピクチャー」を思い描くことだ。ビッグピクチャーとは「大きな絵」のことである。

 「ライバル企業はどんな製品を出しているのか」「自社の技術をどう使っていくべきか」といった小さい話はまず置いておき、最初は「地球規模で何が進んでいるか?」「今、人は何を求めているのか?」と、もっと大きな世の中の趨勢を俯瞰してみるのだ。

 その上で、「だったら自社は、こうあるべきではないか」「こんな製品を開発すべきではないか」と考える。それも一度考えれば終わりではなく、何度も大きな絵を描き、自分の課題に引きつけて考え、また大きな絵に立ち戻ることを繰り返す。

 新参者として家電業界の冷蔵庫部門に入ったとしよう。IoT(モノのインターネット)時代には、あらゆる電子機器がスマートフォンを介してつながることになるだろう。では、インターネットにつなげた冷蔵庫を作れば、買ってくれるだろうか。

 ここでもう一度、ビッグピクチャーから考え直す。スマートフォンのビジネスモデルは、端末販売ではなく、通信料などのサービスを販売し、課金するモデルだ。だったら冷蔵庫でも、本体は無料や格安で提供し、サービスで課金できるビジネスをすべきではないか。

 冷蔵庫の扉をディスプレイにして、レシピや近所のセール情報を配信して課金できないか?あるいは冷蔵庫を企業に貸し出して、富山の置き薬のように”置きアイス”を買ってもらうのはどうだろう?このように、常にビッグピクチャーを基点に考え、適宜そこに立ち返れば、業界の延長線上にないアイデアが次々と思い浮かんでくるのだ。

 また、今は自前にこだわらず他社とアライアンスを組み、スピーディーに開発しないと競争に破れてしまうオープンイノベーションの時代だ。ビッグピクチャーから考え、進むべき方向が見いだせたら業界の常識に縛られずに突き進む。これが「よそ者」の強みとなる。

最初の一手はリーダー自ら実践する

 私はいつも全然知らない業界に「よそ者」「素人」として乗り込んできたが、最初は「よそ者に何ができる」という目で見られることが多い。それに、いくら社内での地位が高くても、肩書きだけで人は動かせない。

 では、「よそ者」が組織を動かすにはどうすればいいか。それには、自分が率先してやってみせるしかない。手本を示して「もしあなたがしないなら、自分でやります」と言う。プロなんだから、やってみせればできるはずでしょう、というロジックならば必ずやってくれる。

 SPEでマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』を販売したときも、最初の4カ月間は私が陣頭指揮することに決め、幹部とその部下を何十人か集めた。「とりあえずついてきてください」といって半信半疑の彼らを連れて訪れたのが、アディダスジャパン時代にお世話になった、あるスポーツ用品量販店だ。

 久し振りに会った社長と世間話も一段落し、本題を切り出した。「ところで今回お邪魔したのは、マイケル・ジャクソンを売ってほしいからです」「えっ、マイケル・ジャクソン?うちがDVDを売るの?」いぶかしがる社長に私は、スポーツ用品量販店がDVDを仕入れたくなる理由も、実際にそれが売れるであろう理由も説明した。

 私の話を聞いて、社長は即決した。「本当は10万枚ぐらいお願いしたいけれど、8万でいいです」。こうして、大手のレンタルショップでさえ5万枚しか引き受けてくれなかったのに、スポーツ用品量販店が「では8万でやりましょう」と引き受けてくれたのだ。

 同店を後にした私は、SPEの幹部たちにこう言った。「とりあえず8万枚注文をとりました。これから他の量販店にも行きます。デパートチェーンも全部まわるつもりです。あなたたち、どうします?できないなら私が自分でやります。残り70万枚、全部私がやってもいいです」。

 目の前でここまで結果を出されては、「よそ者だ」「素人だ」という考えは吹き飛ぶ。残りのスポーツ用品量販店に私が顔つなぎをし、そのチャネルだけで結局、32万枚クリアした。昔から言われていることだが、リーダーが人や組織を動かす要諦は、率先垂範にあるのだ。(了)

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