『里海資本論―日本社会は「共生の原理」で動く』
(井上恭介、NHK「里海」取材班/著)

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  • 著者プロフィール
  • 目次
 美しい海や島々、豊かな海産物の宝庫である瀬戸内海。しかし、ほんの数十年前まで工業排水などによる「赤潮」が頻発し、泳ぐこともままならなかったことをご存じだろうか。そんな瀬戸内海を再生させたのが「里海」の思想と実践だった。里海とは、人の手を適切に加え海を豊かにする運動であり、「SATOUMI」として世界的にも注目を浴びる。

 例えば、赤潮の発生で漁獲量が半減した瀬戸内海の日生(ひなせ)地域では、絶滅寸前だったアマモという海草を手をかけて育て、再び豊かな漁場を取り戻した。このように人間の手を介在させ(自然のお世話をして)、「おすそわけ」を頂くという思想は、自然を征服するという前提に立つヨーロッパでは、当初受け入れられなかったという。

 しかし世界的にも海洋資源の破壊と枯渇が進むなか、有限の地球を救う循環型モデルとして、瀬戸内海生まれ日本発の概念として注目を浴びているのである。ベストセラー『里山資本主義』の共著者でもある著者の井上恭介氏は、「里山資本主義」を”入口”とするならば、”出口”に当たるのが『里海資本論』であると位置づける。

 なぜなら、さまざまな自然活動の最終到達地が”海”であり、広汎な経済活動に影響を及ぼすからだ。読み進めれば「里海」が「里山」につながる自然の循環、そしてその実践は大都市でも可能なことが理解できるはずだ。本書は人口減・高齢化など何かと課題視される地方、そして日本の未来へのヒントあふれる「希望の書」である。
(参考動画:藻谷浩介氏による推薦

著者:井上 恭介(イノウエ キョウスケ)
 1964年生まれ。87年NHK入局。報道局・広島局等で報道番組を制作。リーマンショック前からウォール街を徹底取材し「マネー資本主義」の本質を見る。2011年中国地方の異様に元気なおじさんたちに出会ったことで「里山資本主義」という言葉を作り、取材・制作を展開。番組は第51回ギャラクシー賞報道活動部門大賞を受賞。取材成果をもとに藻谷浩介氏と著した『里山資本主義』は新書大賞2014を受賞。その後「里山資本主義」の可能性を広げる「里海」に没頭し、NHKスペシャル「里海 SATOUMI 瀬戸内海」を制作。

著者:NHK「里海」取材班
 まる1年をかけて瀬戸内海を徹底取材したディレクターたち。海上や空や陸から、さらに水中に潜って撮り続けた岡山と山口の若手ディレクター。その広汎で地道な取材を広島のディレクターが兄貴分として支えた。もう一人の広島の若手ディレクターは瀬戸内の島に通い続け、「里海」の豊かな事例を積み上げた。情熱と粘りの取材班である。伊藤加奈子、花井利彦、藤島恵介、藤原和樹(五十音順)。

はじめに——「里山資本主義」から「里海資本論」へ
第1章 海からの地域再生——古き筏が瀬戸内海を変えた
第2章 「邪魔もの」が二一世紀の資源——「里守」が奇跡の海を育てた
中間総括 「地球の限界の克服」という課題——マネーとは異なる豊かな解決策を
第3章 「SATOUMI」が変える世界経済——「瀬戸内海生まれ日本発」の概念が広がる
第4章 “記憶”と“体験”による「限界」の突破——過疎の島が病人をよみがえらせる
第5章 広域経済圏となる「里海」——大都市でも「里山」「里海」はできる
最終総括 里山・里海が拓く未来——有限な世界で生命の無限の可能性を広げる
おわりに——わたしたちは、生きものである
解説——ささかな力の結集に信を置く社会へ(藻谷浩介)

要約ダイジェスト

海をよみがえらせる「里海」

 スーパーマーケットなどで魚を選ぶとき、「天然」か「養殖」かを気にしているだろうか。「養殖もの」が格段によくなったため、昔ほど気にしなくなったのではないか。しかし、どこまでいっても、養殖は養殖。なんとか天然に近づけないものか。

 そこで、このように考えてみては、と思うのだ。「瀬戸内海全体を”いけす”だと思って、ハマチが住みやすい海にしていけばいい。エサが豊富で汚染がなく、卵を産むにも稚魚が育つにももってこいの場所が用意された、理想的な”天然のいけす”を目指そうではないか」。

 この営みを、私たちは「里海」と呼ぶ。1970年代、

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